英国のあとカナダの情報教育事情を調査し,4月14日に無事に帰国しまし た。 英国の情報教育事情は,これまでの情報教育事件簿でご紹介していますので, 今回はカナダの情報教育事情について紹介しましょう。 カナダの最西端,太平洋に面した州が,ブリティッシュ・コロンビア州(以 下,BC州)です。バンクーバーなどは,日本になじみのある都市で,日本人 もたくさんいます。 BC州は,「Open Learning Agency」という組織を持っています。この組織 は300人規模のエージェンシーで,すべての年令の学習者にさまざまな教育 手段を使って教育を提供することを目的としています。広大なBC州(地図で 見てみましょう),いつでも誰でもが良質の教育が受けられるようにするため にインターネット上に教材を置き,各地区の学習センターと協力して,学校教 育から生涯学習まで,あらゆる教育機会に対応しようというものです。 このエージェンシーは,5つの部局を持っています。もっとも大きな組織は 「Open School」(http://www.openschool.bc.ca/)で,幼稚園から高校,そし て成人までを対象にした教材を提供しています。これらは各地域からも,ある いは家庭からも利用できます。「Open College」は市民大学のようなもので, 「Open University」は,日本でいう放送大学です。「Workplace Training Sy stems」は,企業等からオーダーされて対応する教育研修の組織で,「Knowled ge Network」は公共の教育テレビ放送です。 いずれの組織にも,カリキュラム開発および教材開発を専門に行う人材が配 置され,現場教員と共同チームでカリキュラム,教材を開発しています。学習 目標を明示し,学習指導法や評価法,さらには具体的な教材を州が用意するこ とによって,基本的な学習権を保障しようということです。1つの教材は,お おむね6ヶ月で完成しますが,企画から定常運用までのスケジュールは2年だ そうです。 インターネットを利用して学習するための教材というのは,基本的には自立 型の学習を支援する教材ということになります。つまり,「1人で学べる」こ とをまず基本に編成してあります。これは「1人っきりで学びなさい」という 意味ではありません。学習は個人で成立する以上,自学がまず基本にあって, その上で,必要に応じてさまざまな共同学習ができるよう,インターネット上 にいろいろなプロジェクトが用意されているのです。 ですからそれらの教材には,まず学習者向けの学習課題があらかじめ明確に されています。次に,学習のガイドのための分厚いワークシート集が用意され ています。興味や関心を持つためにテレビ番組やCD-ROMで映像を提供していま す。これらがパッケージ化されており,そのおかげでBC州の津々浦々で同じ 学習機会が得られるのです。 学校で利用する場合の教師の役割について,教材開発者に質問すると,それ は,「学習をマネジメントすること」であるとの回答でした。子どもが黙々と ワークシートに取り組んでいるとき,教師はそっと見守るでしょうが,一方, 興味を失いかけていたり壁にぶつかっていたりするときは,映像を見せたり, 教師が説明するようなこともあります。場合によってはグループを組織して一 緒に学習を進めさせるようなこともするでしょう。これらの教師の役割を,ワ ークシートが規定しているわけではないようです。 思えば日本で始まる「総合的な学習の時間」は,子どもたちに自立的な学習 の機会を与えていく大事な時間ですが,それでは自立的な学習ができる力はど うやってつけていくのでしょうか。「自分でやりましょう」とさせていれば, 自然と自分でできるようになるのでしょうか。「活動ばかりで学習なし」と揶 揄されないためには,ある程度の学習のガイドは必然であると思えます。しか しまだ日本では,自立的な学習の力をきっちりつけていくための学習指導法を 明示的な教材にすることよりも,がんばれがんばれと子どもをはげましている だけに留まっている段階かも知れません。 パッケージ型の教材が豊富に提供されているカナダでの学習は,実に多様で した。教材がパッケージ化されることが,学習もみんな金太郎飴になってしま うと思ってしまうのは,これまで一斉指導を中心に考えてしまっていた日本の 教育の側の思いこみかも知れません。